「気持ちいぃ〜」目覚めを手に入れたい!
連載「睡眠」

 私たちヒトは人生の3分の1の時間を「睡眠」で過ごすといいます。寝ている間に身体及び脳の疲れを休息させ、修復再生させているのです。したがって、健やかな心身を維持するためには眠る必要があるということ。にもかかわらず、日本人の5人に1人は不眠で悩んでいるという調査報告があります。また、米国睡眠障害研究委員会(Wake Up America)の報告では、チェルノブイリの原発事故もチャレンジャー号の墜落事故もスタッフの睡眠障害(不足)の影響は否めないとも。
人には本来24時間の睡眠、覚醒リズムが存在することが分かっています。しかし、現代の24時間社会に生きる私たちは、交代勤務を始め、より業務作業量や勉強量をこなすためには、睡眠時間を削ってそれらの目的を果たそうとしなければならないのが現状。医療従事者はその際たるものといっても過言ではないでしょう。最近の「睡眠障害による翌日の日中の労働力への影響や、勤務中における集中力の低下や不注意により発生した事故などによる損失を計算した報告」では、なんと“我が国の経済に及ぼす1年間の損失額は3兆5千億万円”にものぼるというのです。
各調査研究からも明らかなように、睡眠はヒト、とくに医療従事者においては非常に重要な位置を占めるといえます。たかが「眠り」、されど「眠り」。快適な睡眠は、心身の健康、ミスのない仕事、そして人生の3分の1に快適をもたらすといえるでしょう。このページではそんな「睡眠」のメカニズムから上質な睡眠を手に入れる極意を毎回連載していきます。

第10回睡眠の基礎知識〜その9

日本において5人に1人は睡眠障害があるといわれていますが、入眠障害、中途覚醒、早期覚醒、熟眠障害等々、その症状も様々です。うつ病患者の90%以上に不眠があり、中途覚醒、早期覚醒が多いとされます。うつ病に加え、生活習慣病も原因の一つです。高血圧症の患者は3人に1人が不眠といわれ、高血圧症の患者の80%は未治療であり、高血圧症の人が睡眠剤を服用すると、血圧が改善するとも。糖尿病の人口は700万人の患者がいますが、口渇、頻尿、末梢神経障害(痛み、しびれ)などが理由になって、40%が不眠であるとされます。
このように、不眠症にはさまざまな原因がありますが、これまでこのシリーズでも紹介してきた私たちをとりまく環境の変化が大きな理由になっているようです。現代社会は、ストレス社会ともいわれるように、子供から大人まで、家庭や学校、職場とあらゆる場面にストレスが潜んでいます。これらのストレスは私たちの心身に影響を与え、このため不眠を訴える人が多くなっていると考えられるのです。  また、昼夜の自然なリズムを無視した24時間社会も原因の一つと考えられます。深夜労働や交代勤務制で昼夜が逆転した生活をとらざるを得ない人たちが増え、こうしたケースでは一定の生活リズムを保つことが難しくなります。結果、睡眠と覚醒のリズムをコントロールしている生体時計の機能にズレが生じ、不眠につながる場合がでてくるのです。
単に「眠れない」では捨て置けない、睡眠障害の問題は、集中力・記憶力・思考力が低下し、さらに気分や情動が不安定に陥ることです。さらに厄介なのは、免疫機能や代謝機能などの生命維持のための基本的機能の低下を招くに至ることでしょう。
そんな睡眠障害について、3回にわたり解説していきます。今回は中でも気になる不眠症を取り上げます。

1.睡眠障害の種類

睡眠障害は、1990年にまとめられた『睡眠障害国際分類 第1版』(ICSD−1)では、大きく「睡眠異常」、「睡眠時随伴症」、「内科・精神科的睡眠障害」、「その他」の4つに分類しています。 症状でいうと以下に示すとおりです。

その後、2005年に改定版(第2版)の分類方法が出来上がり、現在、睡眠障害は、以下の8つのカテゴリーに分けられ、睡眠障害と診断される疾病は、80種類以上存在するとされます。

  1. 不眠症: 精神生理性不眠、精神障害、一般疾患の不眠など
  2. 睡眠関連呼吸障害: 睡眠時無呼吸症候群など
  3. 中枢性過眠症: ナルコレプシー、反復性過眠症など
  4. 概日リズム睡眠障害: 睡眠相後退型、自由継続(非同調)型など(体内時計が狂った状態です)
  5. 睡眠時行動障害: 夢中遊行、夜驚症、レム睡眠行動障害など
  6. 睡眠関連運動障害: むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害など
  7. 単独症状など: いびき、寝言、睡眠時ひきつけなど
  8. その他の睡眠障害: 環境因性睡眠障害(騒音・温度・湿度など)

2.タイプ別不眠症の判断目安

不眠とは睡眠障害の中で最もポピュラーな疾病であり、潜在的な患者も多く見込まれ、心身の健康を維持するために必要な夜間の睡眠が、量的または質的に不足して昼間の日常生活に支障を来たしたり、その事により、本人が大きなストレスを抱え込んでいる状態をいいます。下記に一般的に自覚できる症状と原因を挙げておきます。

1.入眠困難
床に就いてもなかなか寝付けない状態。診断の目安としては、1時間以上寝付けない場合となる。
不安や緊張度が強いため。他に身体的疾患、神経質で睡眠へのこだわりが強い場合など。
2.中途覚醒
夜中に目が覚め、その後眠れない状態。全体的に睡眠が浅い場合に生じやすい。診断の目安としては、2回以上目が覚める場合となる。
身体的疾患、精神的疾患、ストレス、環境の変化、アルコール摂取、加齢などが挙げられる。
3.早朝覚醒
意図した時間よりも早く目が覚め、その後眠れない状態。診断の目安としは、2時間以上早く目が覚める場合となる。
うつ、加齢、体質などが挙げられる。高齢者に見られる事が多いが、これは加齢に伴い睡眠パターンが変化するためであり、生理的な現象である。 また、うつ病の特徴的な症状でもある。
4.熟眠障害
睡眠時間のわりに、熟睡したという満足感がない状態で、目覚めた時に睡眠不足を感じる症状。
うつ、加齢など。全体的に睡眠が浅いためと考えられ、「入眠困難」「中途 覚醒」「早朝覚醒」の結果、「熟眠障害」に陥る場合がある。

不眠症を訴える人の中で最も多いのが、何らかの原因で不眠を経験し、その後不安や過度なこだわりにより眠れなくなってしまう精神生理性不眠といわれています。


4.眠れない原因 〜まとめ〜

不眠の背景には、疾患・ストレス・不規則な生活リズムなど、何らかの原因が存在しています。それらの原因を一つひとつ解消することが肝要です。

  1. 日常生活上の出来事:仕事や家庭生活におけるトラブルなど
  2. 人生における大きな変化:近親者の死、結婚、出産など
  3. 神経質で睡眠へのこだわりが強い

  不安、うつ、アルコール依存症など

  1. 環境の変化:転居、入院、旅行など
  2. 睡眠を妨げる環境:騒音、温度、湿度、照明など
  3. 不規則な生活リズム:不規則な生活習慣、時差ボケ、夜勤・交代勤務など
  1. 薬の服用:中枢神経刺激薬、血圧降下薬、甲状腺ホルモン剤、副腎皮質ホルモン剤など
  2. 薬やアルコールの突然の中止:抗不安薬、睡眠薬など
  3. 嗜好品の過度の摂取:カフェイン、タバコ、アルコールなど
  1. 痺痛:頭痛、腰痛、関節痛、神経痛など
  2. 発熱
  3. 痒み:老人性皮膚疾患など
  4. 循環器疾患:心不全、高血圧など
  5. 血管性障害:脳血管障害など
  6. 消化器疾患:腹痛、下痢、嘔吐などの逆流性食堂炎、消化性潰瘍など
  7. 内分泌および代謝障害:肝・腎不全、糖尿病など
  8. 頻尿:前立腺肥大など
  9. 呼吸器疾患:肺炎、気管支炎、気管支喘息、睡眠時無呼吸症候群※1など
  10. その他:ミオクローヌス症候群※2、ムズムズ脚症候群※3など

※1:次回にて詳しく解説します。
※2:睡眠時に足の筋肉に起こる周期性のけいれん運動。眠りが浅くなり、途中で目覚めやすくなるために不眠の原因となる。高齢者、透析患者に多い。
※3:脚部、特にふくらはぎに、ムズムズする不快感を感じて寝付けない症状。ムズムズ感は強くて耐え難く、起きて歩き回ったり、足を動かすとおさまるが、これを繰り返すため、眠れないことになる。高齢者、透析患者に多い。

3.不眠症の診断

不眠症の診断は、不眠症外来のある病院や専門医のいる病院の他にも、内科、神経内科、精神科でも不眠症の診断及び治療は行われています。問診が重要となるので、どんなふうに眠れないのか、寝ている時の様子、起きている時の状況等々を、家族などにも聞きながら自分の睡眠時の様子を把握しておくのが大切です。また、就寝、起床時間を記した睡眠日誌をつけておくことも診断の役に立ちます。専門機関では睡眠そのものを調べるためには、ポリグラフ検査を行います。この検査ではいろいろな装置をつけて一晩眠り、睡眠時の脳波、心電図、眼球運動、あごや下肢などの筋電図に加え、必要に応じて呼吸運動や換気の様子、いびきも記録します。睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害などの診断も正確に行うことができる検査です。また、睡眠のパターンだけでなく、生体リズムを把握するために、細い柔らかなチューブ状の直腸体温計を肛門に入れて、体温の変化を見ることもあります
症状のある人は、早めに受診してみるのがよいでしょう。

4.不眠症の治療法

不眠症の治療には、睡眠薬を使う治療(薬物治療)と睡眠薬を使わない治療の2つがあります。睡眠薬を使わない治療方法は、睡眠環境を整える、食事や嗜好品についての習慣を改める、適度な運動をする、肥満を治すなどの生活指導、よい眠りを得るための、心身のリラックス療法、精神療法による原因になっているストレスや悩みの軽減、2500〜3000ルクスの高照度光を照射することにより、睡眠や体温といった生体リズムを人為的にずらすことで効果を得る高照度光療法などです。
薬物治療に関しては睡眠Topicsを参照してください。

睡眠Topics

睡眠薬事情
不眠が続く場合、睡眠薬を服用することは効果的な治療です。しかしながら、睡眠薬に関しては「癖になる」「怖い」といったイメージを持っている人も多く、これまで何か悪いイメージがつきまとってきました。ところが、最近では大分事情が変わって来て、薬局・薬店で手軽に購入できる睡眠改善薬も登場し、年々市場が拡大しているのです。

1.睡眠薬の種類

一口に睡眠薬と言ってもいろいろ。

2.睡眠薬

従来使用されていたバルビツレート系の睡眠薬は、広範囲(脳全体)に強く作用するものであったため、依存性があったり、大量に摂取すると生命の危険に関わるものでした。しかし、1970年代以降に開発上市され、現在の主流となっているベンゾジアゼピン系薬剤,ベンゾジアゼピン受容体作動剤(非ベンゾジアゼピン系)「ベンゾジアゼピン系」の睡眠薬は、眠りに選択的に作用するため、副作用も少なく安全性の高いものとなっています。
薬剤の性質上、睡眠時の緊張や不安を取り除き、寝付きを良くする作用のものが多く、作用の持続時間の違いにより、次のように分類されます。

  作用持続時間 症  状
超短時間型 2〜4時間 入眠困難
短時間型 6〜12時間 入眠困難
中間型 12〜24時間 中途覚醒、早朝覚醒
長時間型 24時間以上 中途覚醒、早朝覚醒

一般に入眠障害型不眠症には主として超短期作用型か短期作用型薬剤が用いられ、中途覚醒型や早朝覚醒型などの睡眠維持障害型不眠症には、主として中間作用型や長期作用型薬剤が用いられています。

■3.睡眠改善薬

一時的な不眠症状の改善に効果をもたらすものであり、主成分は従来のかぜ薬に含まれていた「塩酸ジフェンヒドラミン」で、脳の動きを活発にする「ヒスタミン」を抑制する作用により眠りを助長。2003年4月に新発売されてから製薬各社の参入が目立っています。
また、2005年に米国でメラトニン受容体作動薬Rozerem(ロゼレム)(一般名ramelteon(ラメルテオン))が承認されたことは記憶に新しく、習慣性が認められないこの薬は、自然に近い睡眠が得られるとの報告があり、多くのタイプの睡眠障害に適応できると期待されています。


資料提供…東洋羽毛工業(株)商品開発部 ホームページ http://www.toyoumo.co.jp/